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12/06(木) 銀杏並木。
2007-12-06 Thu 12:54
甲州街道を日野駅の手前、「日野駅前東」交差点で左折し、
百メートルほど行った「日野駅東」交差点を右折、中央線のガードをくぐってまた左折。
そこから日野駅のホームに沿うにして長い坂を上り始める。
この帰宅コースでは、ここが一番の難所である。とは言え、勝手気ままな帰宅ラン。
心臓を破られる心配はない。ゆっくり、一歩ずつ足を踏み出していけば、
ほどなく坂の頂上に到達する。焦る理由など、ひとつもない。

その坂の通りには、「大坂上通り」という立派な名前がつけられていた。
この辺りの町が、大坂上という地名なのだ。坂を上りきって、その通りを進んで行くと、
日野自動車本社前を目前に、甲州街道に戻る。
日野駅からこっち、甲州街道を通るのと、この「大坂上通り」を行くのと、
どっちが近道なのかは微妙なところだ。
しかし、元々走るのが目的の帰宅ランである。近道をしようという気など、さらさらない。
この道を通るのは、なんとなく、この道が好きだから。ただ、それだけのことだ。

ここは歩道の狭い道で、しかも途中まで意外と人通りもあるから、すれ違いには気を遣う。
車道を走らなければならないことも、しばしばある。しかし、裏路地とは元来こんなもの。
甲州街道を行けばその心配はないから、素直に大きな通りを行った方が
走りやすいことは確かだ。しかし、おれはあえてこの裏路地を行く。
好きに勝る理由などない。

甲州街道は、江戸幕府によって整備された五街道のひとつ。
日本橋を始点に、内藤新宿、八王子、甲府を経て信濃国の下諏訪宿で
中山道と合流するまで三十八の宿場が置かれた。
現在は国道二十号が甲州街道を継承している。

しかし、江戸時代の甲州街道がそのまま現在の甲州街道とは限らない。
同一の部分が多いことは確かだが、バイパスの完成などにより、
並行する別の道となっている所がある。この場合、古い道を「旧甲州街道」などと呼ぶ。

この「旧甲州街道」について、最近になって知ったことがある。実は日野駅の手前、
「日野駅前東」交差点を左折して行くのが「旧甲州街道」だというのだ。
すぐの交差点「日野駅東」をそのまま直進、宝泉寺を左にみて
緩やかな坂にさしかかったところで、道は中央線の線路に分断されて消失している。
古道は線路を挟んだ向こう側――そう、この「大坂上通り」につながっていくのだ。
古来から、大勢の旅人の行き交ったのが、
おれが裏路地と思い込んでいたこの道だったのだ。
好きな理由は、もしかしたらこんなところにあったのかもしれない。
道は人が造る。その歴史も人が創る。道に染みついた人の歴史が、
自然とおれの気持ちを誘っていたのかもしれない。

広大な敷地を誇る日野自動車本社の前を、時間をかけて行きすぎる。
しばらく行った先には甲州街道を隔てて反対側に、コニカミノルタの日野工場。
長距離界では言わずと知れた、名門実業団のここが本丸だ。
シドニーオリンピックのマラソン競技において、ここの陸上部に所属していた
ケニア共和国のワイナイナ選手が銀メダルを獲得した。
その時には、誇らしげに横断幕が掲げられていたっけ。
そんなことも、街道の歴史のひとつとして残っていくに違いない。

未来永劫、この道が甲州街道と呼ばれるとは限らない。
最近開通した日野バイパスの沿道が今よりもっと栄えてくれば、
もしかしたらこの道も「旧甲州街道」と呼ばれる日がくるかもしれない。
それでも、人が創った歴史が消滅するわけじゃない。きっとこれから先も、
この道は行く人の心を誘うであろう。

コニカミノルタ日野工場を少し行くと、歩道に「八王子市」という標識がある。
日野市と八王子市の境の標である。八王子に入ると、帰宅ランも
中盤から終盤へと突入していく。我が家まで、あと七キロといったところか。

この「八王子市」という標識を境に、歩道には銀杏の街路樹が整然と並ぶようになる。
八王子に入った途端に、景観は一変するのだ。この変わりようは見事と言っていい。
銀杏は東京都の「都の木」であるとともに八王子市の「市の木」でもある。
その昔、市の政策でもあって、シンボリックな銀杏の木を、
積極的に沿道に配したといったことがあったかどうか。
晩秋の頃には、色づいて落ちた銀杏の葉で、歩道は絨毯を敷き詰めたように、
一面が黄金色である。
温暖化の影響か、今年は冬になった今に、その時期がずれ込んでいる。
その絨毯の上を走っていると、なにやら後ろから足音が聞こえてきた。

 カサカサ、カサカサ……。

おや、今日も誰か抜いていくのか?
おれは咄嗟にそんなこと思った。実は足音がする前から、
おれはその気配を予感していたのかもしれない。あとから考えると、そんな気がする。
おれは前回、この道を走って帰った時のことを思い出していた。

あれは、先週の木曜日あたりだったのではなかったか。のんびりと走るおれの横を、
ごく普通の格好をした若いオニイチャンが、走って抜いていった。
そのオニイチャンは、それはもう、えらい勢いでおれを抜き去って、
そのまましばらく走ったところ、およそ二百メートルくらい先で、おもむろに、
なんの未練もなく走ることをやめ、歩きに変えた。その様子を見て、オニイチャンが
急いでいるわけでも、ジョギングを楽しんでいるわけでもないことが想像できた。

いくらおれがのんびり走っているからといって、走っていれば
おのずとオニイチャンに追いつく。良いも悪いもなく、これは必然。
おれがゆっくり走ってオニイチャンを追い抜こうと横に並んだ途端、
オニイチャンはまたもやスゴイ勢いでおれから逃げように走っていった。
どうやらこのオニイチャン、おれを意識して、
競争でもしているつもりになっているようだった。

こんな亀みたいにのろまなオジサンランナーなんて、チョロい。

そんな風に思っているのかもしれない。
こう見えても学生時代は陸上の選手だったんだぞ、なんて……。
のろまなオジサンランナーの「遅さ」を、有り難いことにこのオニイチャンは、
おれに教え与えようとしているのかも知れない。

そんなことを勝手に空想したおれは、なんだか少し面白くなって、
スゴイ勢いで抜いていったオニイチャンの後を、着かず離れず追っていった。
そして、またもやオニイチャンが歩きに変えた時に、
間髪を入れず、ゆっくりと抜いてやったのだった。

オニイチャンは、のろまと思っていたおれのことなど、とっくの昔に、
ずっと後ろの方に置き去りにした気になっていたようで、
歩いた途端に抜いたおれの姿を目の当たりにして、明らかに驚きの様子を見せていた。

オニイチャンはいよいよムキになって、今度は全速力でおれのことを抜き、
それまでよりさらにハイスピードで、必死になって逃げていった。
その後姿は、真剣そのものだった。感動的ですらあった。

むろん、おれは益々面白くなって、オニイチャンのすぐ後ろを、
できるだけ足音を立てずに、静かに静かに着いていった。
それは、間違いなく意地悪なオッサンの態度であっただろう。
悪事とは言わないまでも、悪趣味ではあったかもしれない。

しばらく走ったところで、オニイチャンが赤信号になる寸前の歩道を全速で渡っていった。
おれもすかさず着いていった。いくらなんでも、もう着いてこれまいと思ったのだろう、
オニイチャンは肩で息をしながら、ゆっくりと歩き出した。もうこの辺で十分だろうと、
そう安心したに違いなかった。

おれはその横を、できるだけゆっくりと、いかにものんびりとした風に、
のろまなオッサンの体で抜いていき、ごく自然な感じで徐々にスピードを上げた。
おれの後ろを、またもや足音が着いてくる。おれはさらにスピードを上げた。
オニイチャンも必死で追いすがってきていた様子だったが、
おれがキロ三分四十五秒を切るスピードに上げたところで、さすがに諦めたようだった。
足音は、寂しく遠のいていったのだった。

その時のことが、おれの頭をかすめたのだ。おれは咄嗟に、嫌だな、と思った。
もしこの足音があの時のオニイチャンなら、きっとリベンジに燃えているだろう。
もしかして、物陰にでも隠れて、おれが行きすぎるのは待ちかまえていたのかもしれない。
あのオニイチャンならやりかねない。オニイチャンの性格の、
本当のところは知る由もないが、おれはなんとなくそう確信したのだった。

もちろん、おれだって易々とリベンジを食らうつもりはさらさらない。
しかし、嫌だな、と思ったのには理由がある。週末に痛めた脹脛が心配なのだ。
今は故障の一歩手前の状態。こんなことで無理したら馬鹿である。
そこまでしたら、さすがに自己満足の範疇から外れるだろう。
かといって、オニイチャンにリベンジを返されることも、無性に我慢ならない。
やっぱり、おれは単純で馬鹿な男なのだなと、そう思った。

今日のところは涙を飲んでリベンジを受けるしかない。それが大人のやり方だ。
というか、普通のことか。仕方ない。おれは諦めて、さらにスピードを緩める。
さあ、オニイチャン。思う存分リベンジでもなんでもしておくれ。
そう思いながらゆっくりと走っていたが、どうしたことだろう。その足音は、
おれのスピードに合わせるようにして、どこまでも着かず離れずしてくるのだった。
まるで楽しんでいるかのように、面白がっているかのように、
おれのすぐうしろを着いてくる。

 カサカサ、カサカサ……。

オニイチャン、もしかしてこの前の仕返しのつもりか?
おれは、さらにゆっくりと走って、足音の主をやり過ごすことにした。
しかし、どんなにゆっくり走っても、足音は抜いていかない。
さすがに少しイラついてきた。もういいから早いとこ抜いて行けよ。
そんな気分で、走りながら、チラと後ろを振り返った。するとどうしたことだろう、
そこには誰の姿もなかったのだ。

近くに路地へ入る角もない。なのに、今まですぐ後ろを走っていた足音の主が、
忽然と姿を消してしまったのだ。おれは驚きとともに、
釈然としない気持ちを抱えて立ち止まった。
F1030486(1).jpg


今通って来た道を、よくよく見直してみる。だが、振り向いた先には、
誰もいない歩道が薄暗くあるだけだった。
落ちた銀杏の黄金色の葉が街灯に照らされて、まるで雪道のようだ。

どうにも不思議な気持ちになったが、いつまでも考えていたって仕方ない。
不思議だが、リベンジを食らわずに済んだ。気持ちを切り替えると、
少しホッとしたような気にもなる。どうせ気のせいだったと走り続けることにした。

しかし、どうしたことだろう。やはり走っていると後ろから足音が着いてくる。
ザック、ザック、と黄金の道を踏みしめながら走るおれのあとを、
確かにその黄金の葉を舞い上がらせて、足音が着いてくるのだ。

 道は人が創る……。

さっきなんとなく考えたことを、もう一度巡らせた。
江戸時代に甲州街道ができ、以来どれほどの人がこの道を行き交ったことだろう。
数え切れないほどの人の気持ちが、この道を創った。
中には道の途中で果てたひともいたに違いない。
往来の激しい道路だ。不慮の事故にあってしまった無念もあったろう。
そういった星の数ほどの人の想いが、この道を創っている――。

そんなことを思うと、暖まったはずの背筋に、ゾクッと悪寒が走った。
なぜか、今日に限って人通りがまったくない。沿道の家々にも、
そこに人が暮らしている気配が、どういうわけかまったく感じられなかった。

しばらく我慢していたのだが、ついに堪えきれなくなって、
おれは走りながら後ろを振り返った。立ち止まって確かめる勇気が、
臆病者のおれにはなかったのだ。しかし、やっぱりそこには誰の姿もない。
誰もいないのに、足音だけは着いてくる……!
これはいったい、どうしたことだ。誰もいないのに、足音がしているなんて…。

おれは前方にも注意しながら、ゆっくりと走りながら後ろを見ていた。
足音のする黄金色の歩道を、ようく、ようく見たのだった。すると……。

おれは可笑しくなって、思わず吹き出してしまいそうになった。
ぴんと張りつめていたものが、すっと外れたように、途端に気持ちが落ち着いていく。
足音の主を、ついにおれは突きとめたのだ。

それは、こういうことだった。
おれが走ったその後に、走るおれが作った風が、小さく渦を巻くようにして、
黄金の葉を舞い上げていた。それはたちまち歩道に落ちて、
カサカサ、カサカサ、と音を立てていた。足音の正体は、これだったのだ。
足音の主は、実は自分だった。自分の舞い上げた銀杏の葉に、
自分でおどおどと怯えていたなんて、これは笑える。

そこから先はおれもちゃっかりしたもので、
後ろの足音が楽しげにしているようにさえ聞こえた。
まるでスキップでもしているかのようだ。おれの方もなんだか楽しくなって、
ザック、ザック、と大げさに足音を立てながら、
この道が歩んだ歴史なんかに思いをはせる。
この道が造った、人の歴史に心を巡らせる。
なんだか、ちょっとばかり厳かな気分に浸る。そんなふうにしながら、
しばしの間、後ろの足音と一緒に走っていた。

 後ろの足音が、カサカサ、カサカサ。
 おれの足音が、ザック、ザック……?

あれ? おかしいぞ。ザック、ザック、の音じゃない。あらためて回りを見てみると、
いつの間にか銀杏並木は途絶えていて、おれの足音は、
いつものシューズの音に変わっていた。アスファルトを踏んでいく、
ごく普通の足音。でも……。

 カサカサ、カサカサ。

それでも後ろの足音は、おれの事情にはお構い無しに、
先ほどと変わらず聞こえていたのだ。
銀杏の葉を舞い上がらせるような、この足音って、いったい……。
気のせいかもしれない。おれはそれを確かめようと、後ろの足音に聞き耳を立てる。

 カサカサ、カサカサ。

気のせいなんかじゃない、確かに音がする。おれはその足音に、全神経を傾けた。
何度も確かめるように、その音を聞こうとした。すると、なんということだろう。
足音に紛れて、今度は何やら人の話し声が聞こえてくるではないか。

 ボソボソ、ボソボソ。

確かに、人の声がする。誰かが誰かに話しかけているような、そんな感じの声だ。
おれが背筋を凍らせながら、その声に耳を傾けると、その声はなぜか、
このおれに向かって話しかけているよな、そんなふうに聞こえた。

 ボソボソ、ボソボソ……。
 カサカサ、カサカサ……。

おれはもう、振り返ることができなかった。



<今日の練習内容>
(昼休みラン)

4.2km(1050mコース6周) ジョグ

TOTAL Time : 19:51.90   
 
     LAP      SPLIT      /km       AVE
01  05:13.73  05:13.73   04:58.79   05:13.73
02  05:05.29  10:19.02   04:50.75   05:09.51
03  04:41.98  15:01.00   04:28.55   05:00.33
04  04:50.90  19:51.90   04:37.05   04:57.98

/km AVE :04:43.79 (/10km :47:17.86ペース)

(帰宅ラン)
会社から、18km。

<今日のデータ>

今日の走行距離      22.2km 
今日まで         77.4km
平均            12.9/日
体重             66.0kg
体脂肪率          12.5%
別窓 | 短編小説風 | コメント:0 | トラックバック:0 | ∧top | under∨
| 月下独走 |

ひろさんって、こんなオッサン。

<span style= 【 がんばろう 】 


'06年6月、10Kmレースで惨敗。
悔しさから「来年は33分台で走る!」ことを宣言。
その過程を記すためにブログを始める。
しかし、一年後のレースでリベンジを果たせず。

'10年2月、青梅マラソン10km40歳台の部において33分30秒で2位。
4年越しでようやく目標達成!
しかし、ここで立ち止まるわけにはいかない。
次の目標は当然、「32分台で優勝する!」

そんなおれも、ついに50歳。
まだまだ俺は進化し続けるぞ!
今年もガンガン、走るぜーイェイ!!

こんなオッサンランナーだけど、
どちらさんもヨロシク~っス♪